山田詠美『ぼくは勉強ができない』

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)
突然だが、時差ぼけといえば、これを思い出す。
id:rararapocari:20040806で言っていた自分の『古典』について、私の場合は、この本だ。『悪の読書術 (講談社現代新書)』でも、学生に人気がある小説といっていた(定番になると、ちょっとつまらない気もする)。男子高校生が主人公で、自分や周りの窮屈さと戦い、誰もが感じていながらなかなか口にしづらい「どんなに勉強ができたり立派な人物でも、変な顔だったり女にもてなかったりしたらつまらない」というようなことを、次々と引き剥がして陽光のもとにさらしていく、ロックを感じさせる小説だ。

いくつかの章立てのタイトルもすばらしい。その中のひとつに、『時差ぼけ回復』というのがある。主人公がめずらしく風邪で休んでいる間に、同級生が自殺する話だ。自殺した同級生との会話の回想で、彼は自分は生まれつき時差ぼけだと言い、本当は25時間周期の人間の生体リズムをうまく24時間に合わせられないと言う。そんな話が、時差ぼけのつらさを実感して、ますます印象深くなってしまった。

さっき、定番になるとつまらないと書いたが、それでも、この本はいろいろな人に薦めたい。自分の高校生時代を振り返って、彼ほど女性にもてることに真摯(熱心とは違う)になれたら、どんなによかっただろうか。でも、小説の中に出てくる主人公の彼女の桃子さんみたいな、大人の女性もいなかったと思う。それは、さらに同じ年月近く生きてきた今でもあまり変わらない。