またそろそろ図書館に返しに行かなきゃいけないので

著者の日垣隆も、愛着のある1冊になると確信したらしい。全25章からなる、ドキュメンタリー。毎回、実験的な取材方法で、情報技術に関する事柄をさまざまな切り口から紹介し、詳細に記述している。1997年の本なので、コンピュータ関連の話題は、どうしても古くなりがちだが、技術そのものよりも、それにかかわる人物に焦点を当てているので、あまり気にならなかった。「プロジェクトX」的な読み方も可能。

実は、もう本を図書館に返してしまったので、不正確ながら思い出して書くと、面白かったのは、「DNA鑑定」と「ソフトボール監督」の話。「DNA鑑定」は、1990年2月、栃木県足利市で起きた幼女誘拐殺人事件にからめての、DNA鑑定の落とし穴を書いたもの。警察がひとりの容疑者を検挙する際に、さまざまな疑問点を強引に一蹴して、DNA鑑定を妄信したか、という話。「ソフトボール監督」の話は、著者の娘の中学校にソフトボール部を設立したが、まるで弱小なため、筆者が指導者を買って出た、というもの。筆者のプロの領域である「調査」の技術を使ってソフトボールの技術を学び、メンバーを指導し、県大会で勝つになるまでの話を、自分の体験のみに基づいて書いたもの。それにしても、いろいろな取材や書き方があるものですね。それを知っただけでも、得した気分になりました。

この筆者の作品を好んで読む理由を考えてみると、メディアやニュースをどのように見るか、というリテラシーを提示する役割も果たしていることかもしれない。何かに対して疑問を提示するときに、その内容がシンプルである。それも、常識と言えるようなレベルで。そのためには、読者に対しての十分でわかりやすい導入と説明が必要だし、さらにそのために膨大な裏付けとなる取材を必要とする。たとえば、ひと月に100冊程度を読むのが、トップランナーとしての条件らしい。自分の遅さからは、とても想像できません。ますます、彼の主催する「大読書会」が東京で早く開かれるように希望します。