そろそろ図書館に返しに行かなきゃいけないので
- 作者: 辛淑玉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/05/20
- メディア: 新書
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番組では、辛氏が著書『怒りの方法』の内容に基づいて、人間の怒りには、「噴火型」「イヤミ型」「放火型」「玄関マット型」4パターンある、と説明していた。たとえば、レストランで、頼んだ料理がなかなか出てこない。そんなとき、
「噴火型」…「遅いじゃないか!何やってるんだ!」と店員を怒鳴りつける。
「イヤミ型」…テーブルをいらだたしげにコツコツと叩く。
「放火型」…同席している人に、「遅いよねー、ひどいよねー。」と同調を促す。
「玄関マット型」…じっと我慢して、怒りを表には出さない。一見、大人の対応に見えるが、しかし怒りは自分の中に蓄積されていく。
結局、この4パターンの怒りは、何も問題を解決していない。これらを超えた5つ目のパターンとして「問題解決型」を挙げていた。それを「キレる」という言葉と対比させると、
「問題解決型の怒り」…言葉で自分の感情を表現し、人間関係を築き、つなぐためにするもの。
「キレる」…表現する言葉を失った状態で、人間関係を完全に切ってしまうためにするもの。
と定義づけ、豊かな人間関係を気づくための第1歩、としていた。
以上のようなことをテレビでしゃべっていたので、私はますます気になって本を手に取り、読み始めた。以上の事柄は、中心となる章で述べられており、その前後には、辛氏が在日朝鮮人というマイナリティーとしての背景と、石原都知事との戦いが描かれていた。
さらに、「怒り」と自己肯定の関連について、辛氏は「怒りの方程式」で表現していた。
自分を強いと感じる(+)× 怒り(+)= 願望(+)
自分を弱いと感じる(−)× 怒り(+)= 絶望(−)
自分を強いと感じている人や、自分を肯定している人は、怒りを障害を乗り越えるエネルギーにできる。しかし、自分を弱いと感じている人は、怒りは絶望になり、そのまま無力感となって沈殿してしまう、というのである。
この記述を見て、私はショックを受けた。私はこの自己肯定というものを積極的にやってこなかった人間であり、今でも昔のいやな思い出が急によみがえってきて、叫びだしたくなるようなときがある。なぜ、そのように言えなかったのか。毅然とした態度を取れなかったのか、そのような後悔が急に押し寄せる。
「怒り」という感情をやりとりして、人間関係が改善したことが、自分の中にあったかというと、思い出せない。私に対する怒り(らしきもの)を持つ相手に、何が不満なのかわからないので説明してくれ、と言うのだが、結局それが説明されることはなく、うんざりして、そのまま断ち切ってしまうケースが多かったように思う。断ち切ってはみたが、自分の中の怒りは、ただ負債として残っていくだけだった。それは他人に対しての無関心となり、それがまた誰かとのトラブルを起こす、という悪循環だった。
この本は、怒りの表現の方法(言葉、姿勢など)についても書いてくれている。それももちろん役に立つが、「怒り」という感情を肯定的に扱い表現していく、という一点を知っただけで、私には価値があった。
- 作者: 酒井順子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/10/28
- メディア: 単行本
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昨年から、あちこちで目にするようになった「負け犬」という言葉。だったら、その発端となったベストセラーも一度目を通しておこうかと思った。広く知られているとおり、「負け犬」は、未婚、子無し、30代以上の、「いわゆる普通の家庭を築いていない女性」を指す(男性は、オスの負け犬と呼ばれる)。現代では勝負をはっきりさせることがタブー化している中、あえて勝ち負けをはっきりさせ、なぜ「負け犬」は負けてしまったのか、「負け犬」がこれからどうなるのか、を遠吠えしてみる、と自分自身も「負け犬」である作者ははじめに書いていた。
内容は、「負け犬」「勝ち犬」を取り巻く恋愛・結婚はもちろんのこと、ファッション・仕事・趣味・老後など、さまざまなテーマで彼女たちの生活を分析している。読んでいくうちに、かつてこのような文章をどこかで読んだ経験があることに思い当たった。あ、『自意識過剰! (新潮文庫)』を書いた人か。自分がこう見られている、とか、他人をこう見ている、という視線を分析してエンターテインメントのエッセイとしてまとめる、というやり方に、ますます磨きがかかった、というわけか。
酒井氏は最後に、この本を書きだすときに、「常にどこかに敗北者を作り出さなければ、勝利者は勝利者たり得ないという仕組みに、実に不毛な感じを覚え」、それならばはじめから負けっぱなしの立場をとることで楽になりたい、と思ったそうだ。そして、書き終えて後、「ここまで負け犬という単語を連呼してみると、勝ちだの負けだのということが、ほとほとどうでもいいことのように思え」たそうだ。しかし実際は、世間で「負け犬」という言葉がひとり歩きし、結婚をめぐる女性の立場を象徴するわかりやすいキーワードとして、クローズアップされる結果となった。「負け犬」という言葉こそが、この本の成功であり、失敗でもある、と私は思う。
以前、日本語は「格差」を表現することに対応できていない、と村上龍がエッセイで書いていたと記憶している。「勝ち組・負け組」「負け犬」のような二極化がまだいいところなのだろうか。ほかに格差を言い表そうとした言葉って何かありましたっけ?
あ、そうそう、余談だけど、この本に書いてある「イヤ汁」という言葉は面白かったね。「何かの趣味に熱狂的にのめりこんでいる負け犬というのはとってもモテなさそう」で、イヤーな汁が滴っているように見えるんだって。「オスの負け犬」の私も気をつけないと。
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2004/04/01
- メディア: 文庫
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id:rararapocari:20050118で薦められていたので、読んでみた。小説の最後の部分に重きが置かれていたので、楽しみながら読みすすめていた。結果、解説の川上弘美が書いていたような「こわさ」にはたどり着けなかった。なぜだろうか。ラストをいろいろと想像して、当たってしまったせいかとも思うが、そうでもない。自分が本当に気楽な生活を送ってしまっているせいで、身近な人の悪意が存在する、という可能性を想像できないからでしょうか。薦めてくれたrararapocariには悪いが、そこから先に考えが及びませんでした。