キャンセル理由

所用のついでに、取り置いてもらっていたレコードを、レコード店店頭に確認しに行った。マンションビルの中にある一室を訪れ、レコードの名を告げると、レジの人が手渡してくれた。DJセットで試聴した。

聴いてみたのだが、購入するまでのもう一押し、みたいなものが見つからず、逡巡していた。そのうち、プレスミス、雑音、ジャケットの状態の悪さ、デットストックのシールドものよりけっこう高い、などが気になり出した。そういうときはやめたほうがいい。店員さんにキャンセルの旨を伝えた。

「はい、で、どんな理由でしょうか?」

え? 理由ですか? そんなことを訊かれるとは思わなかった。私の頭には、PCからソフトをアンインストールした際に、一部Webブラウザに表示される「なぜご使用をおやめになるのですか?」アンケートの画面が浮かんだ。

聞けば、取り置きの電話を受けた店員さんと違うので、ちゃんと説明しなくてはならない、と言う。理由っつってもな。いろいろあるけどさ。

「コンディションですか?」
はい。(と面倒なのでそう答えた)
「あの、試聴してから決める、とおっしゃったのですか」
はい。

何だかイヤな話の流れだ。急に緊張して居心地が悪くなり、逃げるように店を出た。もう二度と行かないだろう。もし買っていたら、「どこがいいと思って買ったのですか?」とか尋ねられるのか。

ひとが何かを断るときには、たいてい根拠や理由がある。しかし、たとえば、ただ何となくイヤ、というように説明しづらい状況はあるものだ。

そもそも、製品やサービスのフィードバックとして協力したり、自分に責任があって理由の説明が必要なときを除いて、断る理由を明らかにする必要は、あるのだろうか。断る、という結論が明らかな時点で理由を尋ねても、もはや何の意味もないではないか。

以前に聞いた話だが、友人を何かに誘うとき、先に「暇ある?」と尋ねないほうがいい。暇がある、という返事のあとで「○○の映画に行こう」と本題が出たときに、相手は関心がないという理由で断りづらくなってしまうからである。

そんなときは、「○○の映画を見に行こう」と先に言ってあげると、相手は断りやすい(つまり、ウソをつきやすい)、というものである。

自分では、相手に断らせる自由を持たせてあげることがやさしさだ、という意見にすんなりと納得している。しかし、それは自分も自由に断りたい、というわがままの裏返し、のような気もしている。

クレーム処理のプロが教える断る技術

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