フラワー・オブ・ライフ(全4巻) (1) 名手
友人の rararapocari が、ある意味反則な赤字で「感動した」と書いていたので、読んでみました。(id:rararapocari:20070706)
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2004/04/01
- メディア: コミック
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最終巻の4巻の裏表紙には、「名手よしながふみが描く、最高の高校生日記、完結!!」と書いてありました。4巻で完結、というのは、ありがたいですね。『DEATH NOTE』が12巻で完結した、というだけで、偉い、と思ってましたから。とくに、その名手ぶりは、導入部分の引き込みで強く感じました。
ストーリー
(以下、ネタバレあり)
導入部分は、1年と1月遅れの新入生である主人公「花園春太郎」が、自己紹介で自ら白血病だったことを、何のためらいもなく明かします。
ふつう、ドラマを考えるとするなら、病気にかかる前から、病気にかかったと知ったその前後、が、中心になりやすいでしょう。ありきたりですが。
かつて、私が大学の音楽サークルにいたころ、沢田知可子の『会いたい』という曲が気に入らない、と言っていた人がいました。恋人の死、というテーマはあまりにも強く、直球過ぎて、それで引っ張りすぎではないのか、という意見でした。私も賛成でした。
そのような、「直球」を避けて、白血病という「ドラマ」を乗り越えてきた少年の日常、というテーマを最初に提示してきたところに、強く関心を惹かれました。
斉藤滋先生と真島海
もちろん、ストーリーだけでなく、そのキャラクター設定も同様に秀逸です。
主人公の担任、斉藤滋先生がオカマかと思いきや、実際はただマニッシュな女性、というだけで、でもその後で見てもやっぱりオカマにしか見えない、という「仕掛け」を避けられる読者は、いるのでしょうか(別に避けなくてもいいけど)。
斉藤先生:大体このフェミニンな言葉づかい!! このフェミニンな身のこなし!! どこをどう取っても女にしか見えないじゃないのよ!!
春太郎:イヤ… どこをどう取っても完璧なオカマに…
この感じ、誰かに似てるな。あ、思い出した。吉田修一『最後の息子』に出てくるオカマの「閻魔ちゃん」。言葉づかいで女性を強調し、自己主張が強いが、惚れた男には甲斐甲斐しく尽くして優しさを見せる、その健気さ。よく似ています。もちろん、それらが斉藤先生がオカマに見える理由のすべてではないけれど、そういうキャラクター付けが、斉藤先生にもしっかりされていたことに気づきました。
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/08/01
- メディア: 文庫
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主要キャラクターの一人、高校生にして<<最終形態オタク>>で、フケ顔だが美形、長所を探すのが難しい、真島海についても触れておきます。登場人物が、常に誰かを思いやる優しさが行き交う中で、彼だけは、我関せずの無愛想なキャラクターを貫くのですが、それがコメディリリーフにもつながり、ある種のリラックス効果を出しているのかも知れません。
いや、これでは言葉が足りません。彼の表面上ではわかりにくい、でもどこかから滲み出てくる優しさの正体は何なのでしょうか。
しかしながら、ちゃんとストーリーを読み込んでいれば判るとおり、真島は明らかに変人ではあるのだけれども、キチンとした長所をよしながふみは描いている。それは
「迫害を受けている孤独な人に敏感」で、
「そうした人に壁を作ることなく優しく対応し、長所を引き出せる」
孤独な人には孤独な人の気持ちがわかるのですね、と単純化してみました。
ストーリーは、1年後の高校2年生の始業式で終わります。つい彼らの日常生活の感覚に引き込まれてしまい、それは、まるで電車の中でうたた寝していたら、同行者に肩を叩かれて突然目が覚めたような、そんな感覚とともに、よしながふみの「名手」ぶりを味わいました。
(続く)