curtain@恵比寿テネメント

小西康陽氏の年内最終DJイベント"curtain"に行ってきた。今年の10月に初めて"curtain"のイベントで、恵比寿の喫茶店テネメントを訪れて以来である。いつもは夕方から真夜中までのイベントなのだが、今日は忘年会も兼ねて、朝までやるらしい。

会場に夜9時に着くと、店内はテーブル席に2組、10人程度の人がいるだけだった。私は、readymade internationalのファンが長蛇の列を作っていたらどうしようかと思っていたので、少し拍子抜けした。すでに白いセーターと短いマフラーをしたDJの一人がまわし始めていた。

とりあえずドリンクを買って、壁際の席に座っていると、隣にいた温厚そうな青年風の方が声をかけてきた。こんばんは。実は、その日のゲストDJ、松永良平さんだった。渋谷にあるレコード店ハイファイレコード(http://www.hi-fi.gr.jp/)の店長さんだそうで、まだ行ったことがなかった私は、お店のことや、どうやってその仕事を始めたのか、海外の買い付けの話などを聞いた。絶対に私より若いと思っていたのに、私より年上だと聞いて驚いた。常に笑顔を絶やさないのが大切なんでしょう。

そのうちに小西さんが登場し、DJをスタートさせた。踊れないような落ち着いた曲を中心にするイベントなのだが、それでも踊りだしたくなるような、ジャズやボサ・ノヴァがかかる。特に気に入ったのは、ジョージ・シアリングが演奏した"Happy Talk"で、ジャケットを見せてもらったら、周りの人たちも覗き込んでいた。あと、readymadeのページでも紹介していた、 LEDDY WESSEL QUARTET の "It’s Alright With Me"。暗くて速くてグルーヴィー。お金を使いすぎないように気をつけようとしている私でも、思わず買いたくなるレコードだった。どこかで見つけたら買ってみよう。

先ほどお話した松永さんがまわし始めた。どこでこんなカヴァー曲を見つけてくるのか、というような選曲。ピンキーとキラーズ恋の季節』の海外カヴァーとか、いしだあゆみブルーライトヨコハマ』のカヴァーなど。店内は大合唱。小西さんと真っ向勝負。小西さんも「レコード屋のDJさんにはかなわない」と大絶賛。来年は、必ずハイファイレコードに行ってみようと思った。

最初に回していたDJの方ともお話することができた。"M7"という名前で活動されているそうで、サラリーマンの仕事をしながら、オルガンバーを中心に多方面で活躍されているとのこと。この後訪れた有名DJの方とも、ほとんどお知り合いだった。年間に買っているレコードは、1日1枚のペースらしい。やはり海外からいろいろと買っていて、電話をかけてそこで聴かせてくれ、とお願いすることもある、というようなお話を聞かせてもらった。おつまみも分けてもらったりして、ありがとうございました。

深夜になるにつれ人が増えて、店内はけっこうな混み具合。30人ぐらいいただろうか。野本かりあ嬢(CDすばらしかったです、と言って握手してもらった)、須永辰緒氏(新しく買ったレコードを見せて、握手してもらった)、常盤響氏、あいさとう氏、吉田哲人氏、ムーズヴィルレコードの平林氏など。あと、レコード屋さん関連のかたがた。ひょっとしたら、一般客は、自分のほかに数名だけだったかもしれない。ふだんは会えない人に会えたというラッキーな思いと、プライベートな貸切パーティーに紛れ込んでしまったかのような肩身の狭さ。それでもグルーヴィーな音楽は流れ続ける。踊れない音楽中心のはずが、いつのまにかダンス大会に。

夜中3時を過ぎ、となりの女性に話しかけられた。松永さんの奥様だった。「お一人でいらしたんですか?」「そうです。同じ音楽の趣味の人が、なかなかいなくて。」「同じ趣味でも、細かいところで食い違ったりしますしね。」いつも思っていることをそのまま言われた。そして奥様も松永さんと同じぐらいの御歳と伺ったが、やっぱり若かった。

パーティーは朝方まで続き、DJたちは嬉々としてレコードをまわし続け、その光景に恐ろしささえ感じた。私は、急に高カロリーのものを食べて体がびっくりしてしまったように、立て続けに流れるキラー・チューンにわけがわからなくなっていた。しかし、それらに一貫しているグルーヴィーの記号だけは、キャッチし続けていた。朝6時になって、ようやく解散。小西さんと握手をして、店を出た。
松永さんの奥様に、「音楽が好きだっていうのがにじみ出てますね」と言われて、本当にうれしかった。お店でも、初対面のお客さんから、「はじめからずっといましたね」と言われたし、私のようなふつうのリスナーは、ただ聴いて楽しんでそこにいる、ということが、もっとも誠実で意味のある行為なのかもしれない。ただ、でかくて目立っていた、というだけかもしれないが。