上田紀行『かけがえのない人間』

かけがえのない人間 (講談社現代新書)

かけがえのない人間 (講談社現代新書)

文化人類学を専門とする著者が、2006年に行ったダライ・ラマとの対談から始まって、(この辺も偶然にもタイムリーといえる) いま日本に蔓延する、人間を「使い捨て」にする思想から抜けだし、「私のかけがえのなさ」に気づき、自らの希望に沿って、「愛されるより愛する人になる(帯より)」ことを提言している。

大所高所からの物言いではなく、すべて自分の体験から書いている、というところに好感が持てる。とくに、第四章に書かれている、筆者と母の愛憎が渦巻く回顧録が圧巻。

簡単な原理原則を丁寧に繰り返し説いているのだが、ここから何かを自分に還元して活かす、ということができそうな気にさせてくれる一冊だった。ヒントが一つ見つかったので、私にはそれで十分だった。