ヤン富田コンサート@日本科学未来館

ヤン富田、という名前を聞くと、何か確認しないではいられない気になる。日本未来科学館で、16年ぶりにソロコンサート、というので、ひさしぶりにゆりかもめに乗って台場に降りた。

寒い。

寂しげな暗さで不安にさせる場所である。忽然と現れる閉館後の科学館と、数百人の入場待ち。全席自由だから。ふらふらと最後尾を探したら、危うく柵のない池に落ちそうになった。

会場の1Fのシンボルタワーには、巨大な地球儀オブジェが吊り下げられ、その下の舞台に配線いっぱいの機材とスティールパン4台。一人なのをいいことに、ちょこまかと動き回り(身長182cmのちょこまかは鬱陶しくてごめんね)、前から2列目に座った。

近い。

しかし、背後のスクリーンが上過ぎて首が疲れ、後で悔やんだ。客入れ音楽でかかったDoopeesの"Magic Journey"。この前、自分のDJでもかけたが、音が小さかった。やっぱり大音量でかけなくては。

トウキョウ・ディズニー・エイジ?Dー100 cafe Album

トウキョウ・ディズニー・エイジ?Dー100 cafe Album

開演。

ゆっくりしたブレイクダンスを踊る3人のお兄さん、銀のマントでデコレーションした男性。これはヒップホップである、という決意表明にも見えた。その後、ヤン富田ドクター登場。スティールパンでさっそく1曲。

その後、被験者から電極を通じて脳波を取得し(助手が高木完とダブマスターX)、そのバイオフィードバックを解析して音楽を奏で、内・外的宇宙を巡る、というプログラムを決行。ときどき背後のスクリーンに映るiPhoneのアプリ(ワープ装置起動)に会場から笑い。被験者の脳波とサウンドロボで会話もさせていた。いったいどういうことなんだ。

自分の筋肉からも信号を取得して音楽を奏でた。といっても、ヤン氏本人がいうように、楽典的なメロディーはほとんどない。ただピコピコと電子音が鳴ったり、すさまじいノイズが聴こえたり。それでも、個人的には、夕べテレビで見た某歌手が歌う「感動的な歌」よりは、圧倒的に耳を惹いた。

ふだん聴いている音楽の形式からは遠く離れ、無機質な音の洪水をずっと浴びているのに、いやそれゆえか、生と死のようなものをいつの間にか連想している。前に座っていたA.K.I.は興味深そうに聴いていた。そのとなりのおじさんは、頭をガクガクさせながら眠気と戦っていた。そりゃそういうこともあるよね。自分もあくびが出たが、それは退屈なのではなく、脳が異常な量の酸素を消費しているせいだろう。眠気と戦っていたおじさんは、いつのまにかどこかへ消えていた。

ヤン氏は「息子が聴いてたB’zみたいなのがよかった? でも、やればできるんだけど、自分にはこっちのほうが優先度高いもんで。」と。
そして、「でも、好きでしょ? お金払ってわざわざ来てくれてるんだし。」「今日は、本気出してるんで!」そういう口上も面白い。

でも、そんなことばかり話していたものだから、時間が押しまくってしまい、Doopees高木完は一曲ずつ出てきたが、プログラムをすべて消化しないまま終了。アンコールもなし。ヤン氏は平謝りしながら、「でも続きを必ずやります!」と力強く宣言して終幕した。

それにしても、この会場に集まった何百人の「客層」って、どう考えたらいいのだろうか。たいていどんなライヴでも、多数の客がかもし出す雰囲気、というものは感じられるものなのだが、このコンサートについてはよくわからない。

アンケートの感想にも、「どう評価していいかよくわからないが、何かがある、と思わせる。」としか書けなかった。日本科学未来館での科学と未来の音楽。しかし、そこにあるのは前時代的にも見える機械(というよりぐちゃぐちゃコード)と、"ダウン・トゥ・アース"なスティール・パンと、いくらかのユーモア。最後に観客がスタンディング・オベーションをしてしまったのも含めて、よく出来た不思議なコメディ・ショーのようでもあった。