泉昌之『新さん』

新さん (新潮文庫)

新さん (新潮文庫)

先日、ハイファイ・レコード・ストア松永良平氏のブログが1111回を迎えたそうで、(id:mrbq:20081019)

それなりに記念日なので何かしたいのだが、ちょっと出遅れた。

そこでもしご興味のある方がいらっしゃいましたら本をプレゼントします。といっても拙著ではなくぼくの部屋の棚にある本の中からどれか一冊。それじゃわかんないよとおっしゃるのは当然でブラインド・プレゼントということになります。漫画かもしれないし文庫かもしれないし洋書かもしれないし写真集かもしれない。

読書の秋ですし、お送りする基準はぼくが昔読んでおもしろかった本ということで。

今回はクイズも何もなし。先着5名様でいかがでしょう。

応募してみたら、さっそく届いたのが、泉昌之『新さん』だった。漫画である。

角刈りに革ジャンとジーンズの新さんは、30代後半、独身。居酒屋を拠点とした、その日常がつづられている。失礼な奴らに憤ってみたり、やることすべてスジ違ってみたり、バスで見かけた女性をどこまでも追いかけていったり。脱力したトホホな(恥ずかしい言い回しだ)日常を描きながらも、ときどき唐突に展開するコマ割に、どこか不穏さが漂う。

でも、「男はつらいよ」に似ているといえば似てるかなあ、私があまり好きではない。と思っていたら、「俺は寅さんじゃねェ!!」というセリフが出てきた。先回りされた。

あれ、どこかで見たようなことがあるなあ、と思っていたら、『ダンドリくん』と同じ作者か。昔、CDラジカセの宣伝パンフレットに『ダンドリくん』が描かれていた。学校の文化祭でダンスパーティーをやるときに、カセットのA面とB面が入れ替わる間の悪さ、みたいなことを取り上げてオートリバース機能を宣伝していた。そうだよ、この感じだよ。こんなことを思い出すなんて。

私は、この作品を好きなものとしては取り上げないだろうが、でも、異質な毒、としてずっと心に残り続けるだろう。なぜ、松永さんはこれを送ってくれたのか。この本は贈呈されたものなので、そういう意味でも、本との対話が行われる。

『新さん』の中に、松永さんの文章の間にも漂う、静かでどこか枯れたような、しかし何かをきっかけに噴出してくるような情念を読み取るのは、楽しかった。

ダンドリくん (上) (ちくま文庫)

ダンドリくん (上) (ちくま文庫)