池田信夫『電波利権』

電波利権 (新潮新書)

電波利権 (新潮新書)

電波を中心にした放送業界の歴史と体質を概観するには最適な一冊だった。語り口も抑制的で好感が持てる。著者が提示する、オークションなどによる電波再分配の将来像の確度については、まだよくわからない。

いちばん知りたかったのは、なぜ2011年にテレビのアナログ地上波が止まるのか、という理由だった。

電波利用料」の内訳をみると、2003年現在で総額540億円あまりのうち、(略)(基地局も含めて)93%以上を携帯電話ユーザーが支払っているのに対し、放送は1%あまりしか負担していない。

それなのに、総務省が、地上デジタルに移行しようとしたときに、以下の理由で、流用しようとしちゃったんだね。

一部の地域ではデジタル放送に割り当てる分のUHF帯がなくなってしまった。このため、アナログ局の周波数を別のアナログの周波数に変更して、デジタル用の周波数を空ける(「アナアナ変換」の)必要が生じたのである。これは、テレビ局の私有財産である中継局の工事であり、国費を支出するいわれはない。

でも、総務省が国費の電波利用料に目をつけ、流用しようとしたら、「なんでオレたちが大部分を払っている金でやるんだ」と携帯電話業者が反対したんだね。ほかにも財務省が反対して。

これに対して総務省は、「VHF帯(今のアナログ)の放送を止めたら、空いた帯域を移動体通信などで有効利用するからさ」とか言って、それまでは「85%の家庭にデジタル対応のテレビが普及したらアナログ放送を止める」と言っていたのに、強引に国費を引き出すために、電波法に「2011年で止めます」って明記して、財務省に約束しちゃったのか。

それ(アナログ波停止)が現実に不可能であることは、関係者のだれもが知っていたが、これによって国費支出の大義名分はできた。あとのことは2011年が近づいてから考えればよい、というわけだろう。これには民法労連も反対の声明を出したが、銀行への国費投入にあれだけ反対したテレビも(そしてテレビと強く結びついている)新聞も、この国費投入には沈黙し、2003年の通常国会で電波法は改正された。

地上デジタルテレビ放送対応受信機の世帯普及率は43.3%(2008年6月20日総務省発表)。アナログ停波まで3年弱。

かつてカラー放送が始まってから、白黒放送をやめるまでに25年かかった。

どうなるんだろうか。なぜか知らんが、妙に楽しいぞ。