尾行

キャイ〜ンのライヴ終了後、Oさんが話しかけてきた。
「あの、あそこにいるの、××のアナウンサーのA(男性)とB(女性)なんですよ。何で一緒に来てるんだろ。ライヴの取材っぽくないし。すみません、仕事モードに入りますけど、もし差し支えなければ、ついてきてくれませんか。」

ええっ、そんな、尾行だなんて。やります。単純に自分が部外者であるという気楽さがそうさせた。二人とも、私が知らない顔のアナウンサーだった。

新宿タカシマヤのビルは人ごみでごった返しており、後をついて歩くのは比較的に楽だった。Oさんが私についてきてくれ、と頼んだのは、一人でいるより二人で歩いているほうがと不自然さが多少まぎれるのと、二方向を同時に見渡せるので見失いにくいからだろう。それにしても、自分は無関係な者とはいえ、それなりに緊張する。あ、二人がマクドナルドに入った。Oさんが担当雑誌の編集部と連絡を取ったあと、私たちも中に入ることにした。

マクドナルドの中も相当に混雑していて、私たちは店員の案内に従って、AとB二人とは遠くの席に座った。
「親しそうにしゃべってるな。でも、あの感じだと、AとBはつきあっていませんね。」
たしかに、見た感じでは、仲のいい若手の同期、ですかね。スーツ着てるし。そもそもそんな関係なら二人でマクドナルドなんかに入らないでしょ。
「でも、記事のネタにはなるんで。」
と、Oさんはカメラを取り出して、私を撮るふりをして、向こうにいる二人を写した。

その後、AとBの二人は店を出てタクシーを捕まえて移動した。おそらく会社に戻るのだろう。タクシーを捕まえられなかったOさんは再び電話をして追跡を諦めたことを報告した。

茶店でOさんは、ため息を何度もついた。理由を聞いてみると、ライヴの開演前に気づいていたのにすぐに連絡しなかった(そうすればカメラ支援部隊が到着する)ことと、まあまあ撮れていたマクドナルドでの写真を操作ミスで消してしまったことだった。記事にはできないだろう、としきりにがっかりしていた。打てるヒットを空振りしてしまった、という感じ。私たち二人で段取りの改善案、みたいな反省会をした。私は何をやっているのだろうか。めったにない経験であることは間違いない。

Oさんとはそこで別れ、私は次の場所に移動した。