セキュリティとお人よし

通勤電車に乗っていて、目前の端の席が空いたので座ると、黄色い表紙のクリアファイルが一冊、席に立てかけられて忘れられていた。

中身を見てみると、医療関係のプレゼンテーション・ファイルなどであり、隅に某団体名の電話番号が書かれていた。ここに所属する人が忘れたのだろうか。まあ、あとで駅に届ければいいだろう。

しかし、その中に「部外秘」と書かれたページと、ずらりと並んだ組織名と名簿を見た瞬間、急に焦ってしまった。うわ、これけっこうヤバいんじゃないの。しかし、じたばたしても仕方がない。しかるべき場所に届けるだけである。落とした人は困っているだろうが、よかったね、私に拾われて。

いや、もし駅員が中身を見ないで、そのまま倉庫とかにしまわれたりしたら、届かないんじゃないか。駅に届けるよりも、ここの団体に直接連絡したほうがいいのか。どっちがより確実なのか。しかし、うっかり連絡して、自分で対応することになっても面倒だ。どうしよう。どちらにせよ、落とした人は、処分が下るんだろうな。仕方ないけど。いまはセキュリティがうるさくなる一方だから。

駅員さんに届けたほうが結局話が早い。瑣末なことを考えても仕方がない。中途半端に親切心を過剰に働かせるお人よしぶりは、私の悪い癖だ。

電車を降りるときには必ず後ろを一度振り返り、忘れ物をしないように確認している。学生時代に、演劇で使う小道具と台本を置き忘れて、真っ青になったことがあったっけか。それ以来の習慣だったと思う。仕事でPCを持ち歩くようになってから、いっそう強化された。

そんなことを思い出していたら、降りるべき駅を乗り過ごしていた。