奥田英朗『町長選挙』
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
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こういうユーモアのある小説を、最近読んでなかった。同じ作者の『イン・ザ・プール』はすでに映画化されていて、『空中ブランコ』はこんど映画化が決まっているようで。それも知らなかった。
短編の小説が4つで、巨漢だが性格が子供のような神経科医・伊良部と、そこに訪れる患者たち、という構成をとっている。(上の2冊も同様らしい) 登場する有名人の主人公は、すべてわかりやすいパロディーとなっている。
その中の一つ『カリスマ稼業』の主人公・白木カオルは、おそらく黒木瞳をモデルにしている。40代を迎え、必死に「自然体」の美しさをキープしようとする主人公である。
【モデル写真の撮影中、】酒でも飲んだかのように胃の中がぽっと熱くなった。じんわりと【さっき不覚にも食べたスイーツの】糖分が体内に染み渡るのを感じた。
徐々に血の気がひいていく。いけない。このままだとさっき食べたケーキが贅肉になってしまう。なんとかしなければ。
いいや、食べた端から太るなんて、そんなことあるわけがない。気の遣いすぎだ。
必死で自分に言い聞かせる。それなのにカオルの中で次々と焦燥感が沸き起こった。
「いいよ、いいよ。その悲しげな表情」とカメラマン。
まあ、これはまだささやかなほうで、さらに白木カオルの常軌を逸したアンチエイジング努力が展開するのである。笑いながらもやや不安になる。彼女は、どうやって、子供のような性格の精神科医・伊良部の力を借りて、自分と折り合いをつけていくのか。その結末に妙に安堵する。
けっこうな毒も入っている。
「『熱血大陸』って、恥ずかしくない?」マユミがぼそっと言った。
「臭いナレーションが入る日曜夜のヨイショ番組でしょ?」
飄々とした語り口で、あっという間に楽しく読めるので、お薦めします。