橋本治『青空人生相談所』

青空人生相談所 (ちくま文庫)

青空人生相談所 (ちくま文庫)

橋本治は、理屈をこねまわすことを独自のエンターテインメントにできる作家の一人である。そんな彼が、1985年に出した人生相談の単行本は、今年になっても文庫『青空人生相談所』の9刷で重版されている。

人間が悩みにぶち当たるということは、その局面で、実はその人間がまだ全然若かったのだということが明らかになる、ただそれだけのことです。
(まえがき―悩みのメリット)

いま、パラパラと拾い読みしている。思えば、人生相談の問いと答えは、拾い読み、というスタイルに非常に合っている。人生相談は、悩む人の多さもさることながら、記事のフォーマットとしても、秀逸だったのですね。

いまのところ、最も印象に残る問答は、以下である。抜粋で。

問い。

どーもぼくは、信頼できるんだけど恋人にはちょっとというタイプのようです。
(この世の中に「いい女の子」っているのか? という、18歳男子の相談)

さらに書くと、女の子は、見かけがいい男にすぐ寄っていくじゃないか、というよくある話である。

橋本治の答え。

女の子は、他人に距離を置く時は慎重になります。他人を傷つけたくないというのと、うかつなことを行ってヤなオンナだと思われたらたまんないということの、二つです。という訳で、あんまり近寄ってもらいたくない男に対して、女の子は、独特の表現を使います。

(略)

もうお分かりかと思いますが、あなたは<信頼できるんだけど恋人にはちょっと>というタイプではありません。"恋人にはしたくないから、信頼出来る人にとりあえずしときゃいい"というタイプです。
そしてあなたは、そのことをホントは知っていながら、気がつかないことにしているから、女の子に嫌われてるんです。「明るく見せてるけど、暗い」って。

(略)

問題は、そこなんですよ。若くなりなさい。あなたは過剰に防衛しすぎる。

袋小路につかまっていて、ただでさえ本質を読み取りにくい相談者の文章から、ある程度の可能性の推測をしながらも、断定的に一気に斬りつける。

やっぱり面白いわあ。他人の悩みに取りつかれない程度に、通勤電車で愉しむことにする。