貴志祐介『クリムゾンの迷宮』

協力会社の男性若手社員がドキュメントを作っているのを、私が脇から偉そうに指示を出して手伝っている。しかし、ドキュメントを作りなれていないのがよくわかる。なんでこの項目名だけ英語なんだ。表のセルの幅が一定じゃないだろ。

なかでも最も気になったのは、文章の「てにをは」が合っていないことだった。とくに「に」と「を」を取り違える癖がある。

きみ、あんまり本を読んでないだろ。
「そうですね。えへへへへ」
何でもいいから本を読んでみ。興味のあるジャンルとかないのか。フランス書院文庫はどうだ。
フランス書院文庫って、何ですか? えへへへへ」
…。
「あー、それなら、ぼくはDVDのほうが」
うるせえ、仕事が終わったら本屋に行くぞ。何か買って読め。

3人で書店を訪れ、文庫コーナーを巡る。もう一人は、本を読むのが好きらしく、今度は『きけ わだつみのこえ』『あゝ同期の桜』を読みたいらしい。で、肝心の君は、読みたいのは決まったのかね?
「ホラーがいいっすねー」
角川ホラー文庫の前に立った私たち選者2人が、これ、と指差したのは、貴志祐介『クリムゾンの迷宮』だった。買わせて帰らせた。

証券会社をリストラされたサラリーマンが、目覚めると見たことも無い赤い世界に放り出されていた。近くに落ちていた携帯ゲーム機には、「火星の迷宮へようこそ」と表示されていた。そこから始まるサバイバル・ゲーム。エンタテインメント小説の基本的な要素が、ほぼ網羅されており、どんな人でも楽しめるはず。とくに、ゲームブック、というものの存在に少なからず心惹かれた人なら、なおさら。同著者の作品で、『十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA』が映画化されたが、『クリムゾンの迷宮』のほうが、映画化にふさわしいと思う。しかし、今までそうなっていないのが不思議だ。

人の読書の心配をしている場合ではない、来週末の読書会まで、3冊半読まなければならない。大丈夫か、自分。