フラワー・オブ・ライフ(全4巻) (3) 希望

フラワー・オブ・ライフ (3) (ウィングス・コミックス)

フラワー・オブ・ライフ (3) (ウィングス・コミックス)

主人公の花園春太郎は、マンガを描くことの面白さに目覚めます。(ネタバレにご注意ください)


友人の三国くん、武田さんといっしょに、イベントに自作の同人誌を出版したり、クリスマス・プレゼント用にイラストを入れたクォバディスのメモ帳をプレゼントしたり、素人ながらも、クリエイターとしての充実した世界を生きていく様子は、私から見てもうらやましいものでした。

おそらく、物語のハイライトとしては、春太郎が白血病の再発の可能性を知った後に、真島の前で叫ぶ『俺は普通がいい!!』というセリフなのでしょう。しかし、私には、漫画賞を獲得できなかった挫折を経た後の三国くんが、力強く言い放つ以下のセリフも、間違いなくこの『フラワー・オブ・ライフ』のメインテーマだと思います。

10年に一度の天才じゃなくたっていいじゃないか! 残りの9年間もマンガ家になる人はたくさんいて僕らはその中に入ればいいじゃないか! だって僕は天才になりたいんじゃない マンガ家になりたいんだ!

希望を持った人のセリフは、まぶしすぎます。

ちょっと、自分に置き換えてみましょうか。

だって僕は天才になりたいんじゃない システム・エンジニアになりたいんだ!

残念ながら、嘯(うそぶ)いている感が否めません。

ここは、笑っていいんですよ。

私は、春太郎と対比するように「希望を持てない人の寂しさ」が描かれている、もう一人のキャラクターが気になってしまいます。春太郎のお姉さんのさくらです。引きこもり状態から再就職するも、結局すぐに退職してしまいます。希望に燃え、青春生活を謳歌する春太郎に向かって、

あんた(春太郎)みたいにいつも友達と仲良くやれてる人間にわかるもんか!!

と言い放つセリフは、他人事には思えませんでした。私もさくらと同様の不安を常に抱えているタイプだからです。しかし、そんなさくらにも、話の最後には、ささやかな希望が示されます。あーよかった。

アンチ『世界に一つだけの花

話は逸れますが、SMAPの『世界に一つだけの花』という曲が世間でヒットしていたころ、私はまったく共感が出来ませんでした。

No.1にならなくても いい もともと特別な Only one

こういうメッセージを数分間の歌の中で言われても、私には説得力が感じられなかったのです。唐突に、とってつけられたようで。

希望のメッセージがウソっぽくならないように信じさせるためには、十分な説得力を持つ「前フリ」が必要です。そのためには歌よりも、コミックを含む文学のほうが向いているのではないか、と思います。単に、私が歌や音楽に求めているものが、ほかの人とは異なるだけかも知れませんが。

村上龍を思い出す

また話が逸れます。

一時期、村上龍の小説をよく読んでいました。彼は、希望、という言葉をいち早く小説の中でテーマとしていました。そのことが強烈に印象に残り、『フラワー・オブ・ライフ』のような作品を読んでも、「希望」という単語が自分の中でクローズアップされてしまいます。

希望の国のエクソダス (文春文庫)

希望の国のエクソダス (文春文庫)

村上龍は、世間が漠然と感じている不安を作品にして提示するのが、抜群にうまい作家です*1。それは、彼が「(この不安に対して)どうしたらいいか、私にはわからない。」と平然とエッセイを閉じてしまうような「ミもフタもない」正直さが、大きく関連しているのでしょう。

もしも

春太郎がマンガを描くことに出会わなかったら、どうなっていたのだろうか。私にはわからない。

(続く)

*1:「格差」「寂しさ」という言葉も早くからテーマとして登場していました