渡辺千賀『ヒューマン2.0』

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)

シリコンバレーでの生活を紹介した本なのだが、その波が日本にくるのはいつか。そのとき、私はITの仕事を続けているのか。

流行のキーワードをもじった本は、多い。これも、"Web2.0"をもじっている。

ウェブ2.0という言葉がはやった。非常に簡単に説明すると、「インターネットでいろんなことが安く簡単にチチッとできるようになった」という意味である。

筆者の渡辺氏(ブログのURL http://www.chikawatanabe.com/blog/)は、こう冒頭で言い切っているのだが、さすがにこれは言い切りすぎじゃないのか。という自分だって、定義を持って語れるわけじゃない。

はじめは、体言止めが多いなあ、と思って、若干読みづらさを覚えた。かつての私は、うっかりすると、そういうところに足をとられて、読むのをやめたりするのだった。技術系(特にIT系のブログなど)を読んでいても、そういうケチを付けがちだったのだが、それは、単に嫉妬の裏返しなのではないか。今はそういう不毛に気づいて、謙虚に読み進めるようにしている。
そうしているうちに、本質に次々と切り込んでいく筆者の語り口に引き込まれるようになった。

しかし、高付加価値産業が、製造業から、よりアイデアや知恵に基づくものへと移るにつれ、仕事での個々人の能力差はより大きくなってきている。(略)人の10倍成果を出しても収入が一緒なのに耐えられる人は、果たしてどれだけいるだろうか。

そして、インターネットで起こる労働環境の変化について、

「インターネット革命」がアメリカにもたらした大きな変化が、海外に仕事を移管する「オフショアリング」。Eメールに加え、音声やビデオもインターネットでやりとりできるようになり、非常に安価に世界中と通信できるようになった。その結果、今までは国内でしかできなかったような仕事が海外へと移り始めたのである。

これは、私も実際に体験した。去年から今年にかけて、日本語でやり取りが可能な中国の開発部隊に仕様書を送り、すべてプログラミングをさせ、こちらで受け入れ検査を行う仕事をした。そうやって、開発コストを下げているのである。そこで出てくるバグ(問題、ミス、エラーなど)の発見とそのトレース、がテスト期間中の主な仕事だった。中国人の彼らが作るプログラムは残念ながら品質が低く、しかし、彼らも協力的に進めようとしてくれているので、ミスを指摘する際には、彼らのプライドも損ねてはいけない。その感覚が大事だった。
私の体験談はこの程度だが、本の中では、さまざまな「フラット化する世界」の事象が、筆者の観察から描かれている。それほど深い考察があるわけではないが、「フラット化」の内容をつかむには十分である。

話はシリコンバレーでの生活の紹介に移る。IT技術オタクがもてはやされ、数多くのベンチャーが興亡を繰り返し、ストック・オプションでさっさと引退するものもあれば、シリアル・アントレプレナーとして次々と新規ビジネスに参戦するものあり、という紹介が続く。ほかにも福利厚生などにも触れられていて、最新型の個人主義、とでもいうものが、シリコンバレーの生活の基盤になっていることがよくわかる。将来、シリコンバレーに行きたい、と思っている人には、いいガイドになっている。しかし、これらの記述は、何年後かに確実に日本にも波及するだろう、という予言の意味も若干含まれているに違いない。

私にすぐに役立ちそうなのは、第8章「ヒューマン2.0のルール」である。十数個のフレーズが並んでいて、

  • 自分と異なる人を受け入れる
  • オープンソースな人になる
  • 多くを期待される場に自分を置く
  • 理論上の「本当の自分」を探さない
  • 波に乗る(おっちょこちょいな人になる)

腰が重くて引っ込み思案な私にはちょうどいい。でも、過酷なシリコンバレーの生活は私には合わないだろうなあ。第9章のタイトル「最後の友人は家族」というのも、ちょっと違和感を覚えるしね。

それにしても、著者の近景写真といい、その内容といい、どこかレディメイド・エンタテインメント社長の長谷部千彩氏のブログ(id:readymade_hsb)を思い出す。