西成活裕『渋滞学』

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

車、電車やバスのダンゴ運転、人の混雑、インターネットの輻輳(ふくそう)から、たんぱく質の運動まで、日常に起こるさまざまな“渋滞”は、どのように起き、解決されるのか。数学は象牙の塔の中のものではなく、実社会にだって役に立つ。シンプルなモデルを使って解析し、本質を切り取る面白さ。でもそこまで行くには、一線の研究者にも10年程度の時間が必要だった。

かつて理科系だった人や、ある程度、数式に慣れ親しんだ人でも読めます。しかも各章末に、ポイントがまとめてあり、大学で教えている、ということがいいほうに影響しています。新潮選書からリリースしていますが、いま盛んに各出版社が取り上げている新書にしやすい内容だと思いました。

しかし、他のブログを読んでみて、評判が高いのだけれど、その人たちが面白いというほどに感銘を受けなかったのは、卑屈になるわけではないけど、自分の心の余裕の問題でしょう。それよりも、あとがきの一節に目を奪われてしまうのが、自分らしさなのか。以下の引用文は、著者が、理学と工学の橋渡しとなる、分野横断的な人材の必要性を説いたものです。

クイズ王と専門家のちがいは、例外まで含めてある分野の原理原則を知り尽くしているのが専門家で、専門知識の一部を例外抜きで満遍なく知っているのがクイズ王である。例外を知ることは、知識の適用限界を知ることにつながり、実際に知識を実生活に応用する際にはとても大切なのだ。
(略)
もちろん全分野で専門家になるのは不可能なので、自分は一つの分野で専門家であればよい。しかし自分の専門分野以外に、クイズ王よりは深く工学と理学のいろいろな分野を知っていることも必要なのである。その上で専門家の友人を多く持ち、その内容を理解してお互いの精神を共有できる人材こそ、これからの社会を担う人材である。異分野の知識が有機的に結びつくのは、結局一人の人間の頭の中にそれらが入り込んで混ざったときのみである。

ただ盲目的に問いと答えの知識を鵜呑みにしてしまいがちな自分には、まぶしい一文でした。