レコード供養会またはターンテーブルの向こう側からの景色

6月9日に、高円寺のバー「アイツの噂」でDJアキラさんが主催するレコード供養会に行ってきた。ふだんクラブではかけられないようなレコードを持ち寄ってかける、という集まりである。アキラさんに、レコード廻したことないんで、やってもいいですか、と尋ねてみたら、いいよ、と言っていただいたので、レコードを持っていくことにした。

当日は仕事のプロジェクトの最終日で、とくに何事もなく終わる予定だったが、自分が使っているコンピュータのソフトウェアのバグを見つけてしまって仕事が長引き、結局、着いたのは午前1時だった。お店の常連の方に混じって、今日のDJのみなさんが集まっていて、大量のレコードとお酒を前に、わいわいと盛り上がっていた。

皆さんのかけるレコードの、一曲一曲に反応して笑っているうちに、とうとう自分の番になった。レコードバッグなどを持っていないし、また初めてということもあって、あらかじめ決めておいたレコード11枚を持っていった。その日はちょうどFIFAワールドカップの開幕戦の日だったからだ。うそ。そのことはあとで言われて気がついた。

で、初めて人前というだけでなく、DJセットでレコードを廻してみてどうだったか。
やっぱり緊張で手は震えるし、自分は普通のレコードを普通にかけてしまうので、浮いてしまうし。ちょうど、みんなが面白い話をしているときに、ひとりだけ真面目に話をしてしまうように。あ、いつもの私か。供養会には、笑いという暗黙のコンセプトがあることを、すっかり忘れていた。

そのせいで、視界はCCDカメラで撮影したように一気に狭くなり、冷や汗ばかりが噴き出す。少し時間が経つと、自分でかけている曲も長いなあ、と思い、強引にカットして次の曲につないでしまう。なぜか、かつて見たNHK教育テレビの趣味のギター講座に出演していた、一般のおじさまたちを思い出した。初心者の自分が似ていると思ったのだろうか。

あれ、ドーナツ盤の穴にアダプターが大きすぎてはまらない。裏面は入るのに。となりでは同じくドーナツ盤が廻っているので、代替できない。メトロさんもそばに来て見てくれたが、レコードが割れると危ない、ということで、結局その曲を諦めた。そういうこともあるのか。

自分の順番が終わった。長くは感じなかった。そりゃあ、まったくの未経験者がそううまく行くわけはないが、私自身を供養したい気分だった。最初にかけた曲は、森繁久彌であったことだけ書いておく。何となくバーが全体が静かなのは、午前4時ごろだからという理由だけではないだろう。すみません、アキラさん、あとをお願いします。

ちょうど、何が言いたいのかわからない、作文のようなものだったかもしれない。単語(レコード)を並べることは出来るが、全体として伝わるものがない。かつて出席した文章講座で言われた「キャラを立てる」という考え方は、まさにここで必要なのだろう。ある方にご挨拶したとき、「なぜかいるよね」と言われたのは、冗談であったとしても、穿って考えれば、キャラが立っていない、ということにつながってくる(そもそも冗談は根拠がなくては成立しない)。そして、自分がどういう音楽が好きか、もっと自覚を持ったほうがいい。

その後、マスターのしゃべり入りの(文字通り)DJを経て、最後に皆で自由にいろいろと曲をかけ、午前6時ごろに解散になった。なぜかそのころにやってきた山中君たちも合流していっしょに朝ごはんを食べたのち、私は帰路についた。三輪素麺の太いヤツさんと山中君は、さらに川越に飲みに出かけた(!)。

「あの、もうatnbくんは出入り禁止だって」
え、なんでですか?!
「なんか口臭がひどいからって」
ぼく、朝昼晩ちゃんと歯磨きしてますよ。胃も悪くないです。あ、あれですか、センスが悪いってことですか?
「いや、あの、その」
どうなんですか。それならそうとちゃんと言ってくださいよ!

と、だれかと会話した夢を見たところで、昼ごろに目が覚めた。なにも、そこまで悲観的にならんでも。

DJセットを操作させてもらったことで、数多くのことに気づけたのは、貴重な体験でした。そういう場を提供していただいたアキラさん、「アイツの噂」のマスターさん、自分の番が終わってからお帰りになるときに「がんばって」と言ってくれたkoike1970さん、聴いていただいたメトロさん、三輪素麺の太いヤツさん、yama-sanさん、ありがとうございました。

追記:セットリスト

  1. 森繁久彌 / フラメンコかっぽれ
  2. ザ・フォーク・クルセダーズ / 帰ってきたヨッパライ
  3. チエコ・ビューティ&ピアニカ前田 / オレンジ色の恋
  4. pizzicato five / ラヴァーズ・ロック
  5. ribbonピラニアンズ / 風よつたえて
  6. 大杉久美子 / ロックリバーへ(アニメ『あらいぐまラスカル』オープニング・テーマ)
  7. (サケロック / 穴を掘る) ←スキップ
  8. United Future Organization / Cosmic Gypsy
  9. Soul Bossa Trio / Song for the Soul
  10. 中原めいこ / 君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。
  11. 大橋純子&美乃家セントラル・ステイション / シンプル・ラブ