新日本プロレス G1クライマックス2005 決勝戦 (8月の想い出 3)

長いことプロレスに関心を寄せているものの、今はそれほど面白い状況が少ない、という感想を持っています。でも、この大会は毎年観に行くと決めているもののひとつです。約10日間におよぶ、シングル最強を決めるリーグ戦は、その形式だけで、番狂わせなど様々な展開の面白さを保証してくれるからです。外部からの選手が参加することにより、初対決を連続で見る面白さが味わえる、というのも大きなメリットのひとつでしょう。

最終日の決勝トーナメント、準決勝 第1試合。わずか数年のキャリアでありながら、その天才ぶりを発揮して勝ち上がった新日本の若きエース、中邑 対 G1で過去4回の優勝を数えるベテラン選手 蝶野。中邑は序盤からガンガン攻め立てるも、得意技のニードロップは自爆、そのスキをついて、蝶野は足に集中攻撃。中邑も反撃を試みるが、ダメージを受けているふうの蝶野に連続で技をすかされ、最後は蝶野が締め技『裏STF』で中邑からギブアップを奪いました。ベテランの試合運びの老獪さが、試合を支配していました。

準決勝 第2試合。新日本プロレスのライバル団体である全日本プロレスを今年退団し、フリーに転身後参戦した 川田 対 5年前に新日本プロレスを退団し、現在、新日本の象徴であるIWGPベルトの保持者、リーグ戦も全勝で勝ち抜き、別名「野獣」の藤田。外敵同士の初対決となりました。私がもっとも見たかった対戦です。両者は彼らの持ち味である正面からの殴る蹴るの攻防を展開。しかし、ひざ蹴りの連続でペースをつかんだ藤田が、最後に正面からのひざ蹴りで川田をKOし、3カウントをとりました。気がつけば、川田は彼の得意技の締め技や投げ技をほとんど出すことなく敗退してしまいました。藤田のファイトスタイルを、川田が正面から受け止めすぎてしまった、ということがこの試合を決した、といえるでしょう。

勝戦は、外敵としてベルトを保持し、G1のタイトルも食らおうとしている藤田 対 新日本プロレス代表として、看板を背負って戦う 蝶野。ホーム&アウェイの背景のほかに、蝶野選手の同志でもあり、新日本で『闘魂三銃士』として切磋琢磨しあった橋本真也選手が、この7月に急逝してしまった、ということを、会場に来ているほとんどのファンは知っていたはずです。「ドラマ」という要素を考えるなら、完璧なストーリーです。実際、蝶野選手の入場前に橋本選手の入場テーマが一部流れ、その意味合いを知らしめていました。ちなみに、蝶野選手はそのことを事前に知らされておらず、闘争意欲が萎えてしまい、困ったそうです。

試合が始まった瞬間、蝶野が藤田の蹴りの連続攻撃を食らって場外に逃げたとき、私は「蝶野が勝つ」という確信を持ちました。今までの藤田の対戦相手は、ことごとく藤田の試合のペースに持ち込まれ、敗れていました。蝶野がそれに対抗しうるには、ゆっくりのペースに持ち込んで藤田の連続攻撃に巻き込まれないようにする。それしか方法はありません。

場外から戻ると、蝶野は橋本選手の技や、同じ闘魂三銃士だった武藤選手の技を使い反撃を開始。さらに、硬化プラスチック製のニーブレス(ひざの補助器具)を使って、反則ギリギリとも言えるひざ蹴り。さらに蝶野は裏STFでギブアップを狙うも、藤田はギブアップせず、最後はなりふりかまわない飛び蹴り(シャイニング・ケンカキック)の連発で、蝶野が3カウントを奪い取り、優勝を決めました。

結局、蝶野が新日本を守り、亡くなった橋本選手にメッセージを送る、という大団円でした。一緒に観ていたid:nonkichi 夫婦は、私の横で涙を流していました。私は、蝶野のプロレスが、藤田の総合格闘技をベースにした戦い方に通用することが確認できて安心した一方、いまだにG1クライマックスで新日本以外の選手が勝ったことはなく、このタイミングだからこそ、藤田が優勝してその後の新日本プロレスおよび展開はどうなったのか、という危機感たっぷりの予想をどこか楽しんでいました。

こんなことを考えているから、ひねくれている、とか言われるんでしょうね。しかし、プロレス特有のドラマツルギーが歴史あるプロレス団体で破壊されるとき何が起こるのか。そして、そこから新たなプロレスの戦いの方法論が生まれるのか。そんなに熱心なプロレスファンというわけではないけれど、15年以上も観続けていると、そういう転換点を目撃することが、最大の楽しみだったりします。