渡辺千賀『ヒューマン2.0』
ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)
- 作者: 渡辺千賀
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/12/08
- メディア: 新書
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流行のキーワードをもじった本は、多い。これも、"Web2.0"をもじっている。
ウェブ2.0という言葉がはやった。非常に簡単に説明すると、「インターネットでいろんなことが安く簡単にチチッとできるようになった」という意味である。
筆者の渡辺氏(ブログのURL http://www.chikawatanabe.com/blog/)は、こう冒頭で言い切っているのだが、さすがにこれは言い切りすぎじゃないのか。という自分だって、定義を持って語れるわけじゃない。
はじめは、体言止めが多いなあ、と思って、若干読みづらさを覚えた。かつての私は、うっかりすると、そういうところに足をとられて、読むのをやめたりするのだった。技術系(特にIT系のブログなど)を読んでいても、そういうケチを付けがちだったのだが、それは、単に嫉妬の裏返しなのではないか。今はそういう不毛に気づいて、謙虚に読み進めるようにしている。
そうしているうちに、本質に次々と切り込んでいく筆者の語り口に引き込まれるようになった。
しかし、高付加価値産業が、製造業から、よりアイデアや知恵に基づくものへと移るにつれ、仕事での個々人の能力差はより大きくなってきている。(略)人の10倍成果を出しても収入が一緒なのに耐えられる人は、果たしてどれだけいるだろうか。
そして、インターネットで起こる労働環境の変化について、
「インターネット革命」がアメリカにもたらした大きな変化が、海外に仕事を移管する「オフショアリング」。Eメールに加え、音声やビデオもインターネットでやりとりできるようになり、非常に安価に世界中と通信できるようになった。その結果、今までは国内でしかできなかったような仕事が海外へと移り始めたのである。
これは、私も実際に体験した。去年から今年にかけて、日本語でやり取りが可能な中国の開発部隊に仕様書を送り、すべてプログラミングをさせ、こちらで受け入れ検査を行う仕事をした。そうやって、開発コストを下げているのである。そこで出てくるバグ(問題、ミス、エラーなど)の発見とそのトレース、がテスト期間中の主な仕事だった。中国人の彼らが作るプログラムは残念ながら品質が低く、しかし、彼らも協力的に進めようとしてくれているので、ミスを指摘する際には、彼らのプライドも損ねてはいけない。その感覚が大事だった。
私の体験談はこの程度だが、本の中では、さまざまな「フラット化する世界」の事象が、筆者の観察から描かれている。それほど深い考察があるわけではないが、「フラット化」の内容をつかむには十分である。
話はシリコンバレーでの生活の紹介に移る。IT技術オタクがもてはやされ、数多くのベンチャーが興亡を繰り返し、ストック・オプションでさっさと引退するものもあれば、シリアル・アントレプレナーとして次々と新規ビジネスに参戦するものあり、という紹介が続く。ほかにも福利厚生などにも触れられていて、最新型の個人主義、とでもいうものが、シリコンバレーの生活の基盤になっていることがよくわかる。将来、シリコンバレーに行きたい、と思っている人には、いいガイドになっている。しかし、これらの記述は、何年後かに確実に日本にも波及するだろう、という予言の意味も若干含まれているに違いない。
私にすぐに役立ちそうなのは、第8章「ヒューマン2.0のルール」である。十数個のフレーズが並んでいて、
- 自分と異なる人を受け入れる
- オープンソースな人になる
- 多くを期待される場に自分を置く
- 理論上の「本当の自分」を探さない
- 波に乗る(おっちょこちょいな人になる)
腰が重くて引っ込み思案な私にはちょうどいい。でも、過酷なシリコンバレーの生活は私には合わないだろうなあ。第9章のタイトル「最後の友人は家族」というのも、ちょっと違和感を覚えるしね。
それにしても、著者の近景写真といい、その内容といい、どこかレディメイド・エンタテインメント社長の長谷部千彩氏のブログ(id:readymade_hsb)を思い出す。
小倉千加子『結婚の条件』
なぜ、日本の晩婚化と少子化は止まらないのか。
- 作者: 小倉千加子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2007/01/01
- メディア: 文庫
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事前の情報が大してないままに、この本を読んでみた。著者の小倉氏は大学教授でフェミニストらしい。読み進めてみれば、母と子、雑誌「VERY」と「STORY」に代表される価値観、だめんず・うぉ〜か〜分析、梅宮アンナ、恋愛とフェティッシュなどをテーマに、みもふたもない分析が次々と続き、その説得力の強さに、ああ、これじゃ晩婚化になるわなあ、と頭を垂れる他はない。それが最後まで続く。希望のある総括など期待してはいけない。でも、ひねくれている感じや嫌味な感じはない。それどころか、端々にちりばめられるユーモアに、思わず笑ってしまう。
- (梅宮辰夫に甘やかされたアンナを指して)猫をカスタード・クリームの中で溺死させるという殺し方もあるようだ。
- この女子学生の結婚願望を男子学生に紹介すると、教室中に「冬中(原文ママ)夏草」みたいな菌糸状のものが浮遊する。漠然とした怒りと不安めいたものだ。
テレビによく露出する一部のフェミニストのせいで、ヒステリックな言動ばかりになるのでは、という先入観をつい持ってしまう自分だが、客観性に貢献するような、距離感を保つ努力には、誠実さを感じる。
この本のリリースは2003年なので、これまで数多くの書評がブログ上にあるので、そちらも参考に見てもらうとして、finalvent氏の『極東ブログ』(http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/01/post_19.html)の書評で、発売当時の帯に書かれていたコピーを知った。
「青年よ、大志を捨てて、結婚しよう」
本当かよ?! とてもそうは見えなかったけどな。
本に書かれている分析はさまざまなのだが、未婚男性の私が受け取ったメッセージをまとめるなら、「早く幼さを捨てなさい」だった。じゃ、帯のキャッチフレーズも外れてないか。
最後に、著者はこう諭す。
私は、男子学生に何度も諭してきた。結婚に高望みをしてはならない。男性が女性に求める不動の条件は4K「可愛い・賢い・家庭的・軽い(体重が)」であるが、四つもKを求めていては、いつまでも結婚できない。二つあれば御の字で、三つ求めるのは自信過剰である。どれを捨てて、どれを残したいのか早くに決めて、条件に合う人がいれば早く行動に移すこと。
はーい。
ささきまき『やっぱりおおかみ』
マイミクシィの一人が、日記で触れていたので読んでみた。一匹だけ生き残ったおおかみは、仲間を見つけられるのか。
- 作者: 佐々木マキ
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1977/04/01
- メディア: 大型本
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全31ページ。絵本だからすぐに読み終わる。「影」として描かれるおおかみは、うさぎやぶたと触れ合おうとするが避けられてしまう。そんなとき、おおかみは「け」とつぶやく。しかし、仲間に入りたい、という気持ちは消えず、おおかみは、さ迷い歩く。
絵本に描かれているうさぎたちの顔は、どこか奇妙だ(ほかの動物はそうでもないのに)。
「君が世界とうまく行っていないとき、周りの奴が変な顔に見えるものだ」、と歌ったのは、ドアーズだったか。
こういう本を読んで、何にも感じない大人はいるのか。それは常に人間関係に恵まれた人なのか。私は、今まで何度「け」とつぶやいたか(とくに学生時代)。しかし、ある程度年齢を重ねた今なら、うまくやり過ごす方法も少しはわかるし、一人でいるのが好きな自分も自覚できる。
最後、おおかみは悟りを得る。しかし、大人になってから悟りを得ると、そこまでの道のりが遠いことも同時にわかってしまう。なかなかうまくいかないものだ。